※ハロウィンパロディーです

※食べられてます。ちょっとしたグロ注意


狼男3階×不死身(悪魔)1階のお話

(8階のフランケンの設定は某様の漫画の設定を勝手に使わせて頂きました。フランケンまじかっこいい禿げる)



ー指輪ー





「何です、これは」


3階がフフフーとイラつく程のわざとらしく笑いながらカウンターに置いた銀色の小さいリングを見下ろしてきく。


3階はカウンターに肘をついて短く

「指輪」

と答えた。

そんなの聞かなくても知ってる。

1階ちゃん似合うかなって」

「アホですか」


3階のアホらしい解答に溜め息をつく。

こういうのは可愛らしい女性にするべきだ。

後何年か歳とったら三十路になる男にするもんじゃないだろうに


「つけてみてよ」

「嫌です」


本当は嫌な気はしない。少なくとも彼は俺に好意を抱いているのだ。もしそれが気紛れでも気でも狂ってない限り男が男に指輪を贈る事なんてしないだろう。多分。

だからと言って嬉しいって訳でもない。絶対にありえない


そうか


3階は心底残念そうに小さく呟いて指輪を回収しようと手を伸ばす

前に勝手に俺の手が先に指輪を回収した。


まあ、貰ってやらない事は無いです」


とっさに出た言い訳。3階はポカンとしてたが直ぐにふにゃりと笑って


「ありがとう」

と何時もとワントーン上がった声で言った。

実に分かり易い男である。


「じゃあ俺、仕事に戻るよ」

3階は手を振って背を向けてエレベーターへ向かった。

不意に揺れる狼の尻尾が目に入る。



ああもう後何日で満月が来るのだ。














しかし満月が近付こうが近づかまいが客足は変わらない。たまにうさぎは来るがその殆どがエレベーターに行ってしまうのだ。

静かな靴屋で金属音を鳴らす。

鉄で出来てるらしいシルバーの指輪はカウンターの上で転がってキラキラと光を反射させていた。

純銀で使ったら悪魔である俺も狼男な3階もきっと触れる事は出来ない。


ふと何を思ったのか左手の手袋を外して指に指輪をゆっくりはめてみる。

冷たい鉄はぴったりと薬指にはまった。


しばらく天井の電球の光に当ててみて

「何をやってるんだ」

と呟くとチーンと音を鳴らしてエレベーターのドアが開く。

指輪を外す暇もなく慌てて手袋をつけた。

3階が尻尾を振りながらエレベーターから降りてきた。

呑気な奴。







満月の日。


今日は3階は来ないだろう。

満月になると狼になって暴れてしまうから自分で自分を拘束して閉じ込めるのだ。


俺は手袋越しに薬指の根元を摘んでずっと外し損ねてる指輪の硬い感触を感じてそろそろ棚の靴を磨かなきゃならない事を思い出してカウンターから出る。


ズン


上から何かが響く音。一瞬心臓が跳ねるが「狼か」と呟く。

あの馬鹿デカイ狼が同じ建物に居るという事がとても胃にクるが前みたいに鎖が切れてこっちに来ることはもう無いのだと自分言い聞かせて棚の商品に手を伸ばす。

たまに思い出すあの鋭い牙が爪が肉に食い込む感触を。一度体を食われた事があるのだ。

拘束具の管理を怠ったのか錆びた鎖が切れて暴走した狼は何故か他には見向きもせずに俺の肉を食らった。

さすがに不死身でも身体を半分食われると「死ぬ」と思ってしまう。


だが案外数日で身体が再生してこの通りピンピンしてる訳だが。


何はともあれとりあえずアレから3階は毎日拘束具の管理をしてるのでもう狼が逃げ出す事も食われる事も無い。


と思っていた。



チーン


背後からエレベーターの音がして振り向く。

満月の夜は化け物である店員がみんなうさぎの肉を食らってしまいそうになるのでデパートは夜から休みなのだ。だがもしエレベーターが動いてこの階に来るなら13階さん辺りの上司が何らかのお知らせに来ると言う事になる。


俺は思わず目を見開いた。


見たことある大狼がエレベーターからのっしのっしと降りてきたのだ。

狼はグルグルと唸り俺から目線を外さない。

ビリビリに破けても顔に貼り付いてる覆面の一部で唯一彼だとわかる事が出来る

もう逃げ出す事は無いのでは無かったのか?

何故また彼は


嘆いてもこの狼は拘束具を壊して俺の元へ来てしまった事実は変わらない。


狼は口を開けて俺に飛び込む。

とっさに腕で庇うとギラギラ光る鋭い牙が左腕に食い込んだ。

そして気付く。


駄目だ、その腕はその手は


「離せ!!!止めろ!!」

思わず声をあげる。だが狼は耳を貸さない。ギシギシと骨が軋む音がして気が遠くなる様な激痛に気づく。

駄目だ、今気絶したら食べられてしまう 腕を 指輪を

別にあんな指輪なんてどうでも良い筈なのに俺の体は反射的に腕を噛みちぎられないように右手で抑えてしまう。だが大狼の力には勝てない。狼がブンブン首を振ると俺の左腕は血飛沫をあげてあっさりちぎれてしまった。

兎の腕はこんなにも弱い物なのか それとも俺が軟弱なだけなのだろうか。


「馬鹿…かえ…せ!」


頭で考えるより先に手が伸びてまだ生暖かい腕を掴む。パニックになってる俺は「手袋を外して指輪だけを抜き取る」なんて発想は浮かばずにただがむしゃらに腕を引っ張った。千切られた生々しい傷口から血がドバドバと溢れる。多量出血と己の腕から溢れる血で吐き気が止まらない。気を遠のく。それでも腕を掴む。


貴方がくれたくせに奪うのですか


思考が麻痺する。狼がまた首を振って俺の手を振りほどく。俺の手はあっさりと振りほどかれてその拍子に倒れてそのまま意識が途絶えた。

グチャリと何かがつぶれる音がし     た
















心地いい。

背中の感触で恐らく俺はベッドに居るのだろう。いつから寝てたっけ。寝る前まで俺は何を


心臓が跳ねる。


そうだ 俺は  指輪


ハッと目を開いて反射的に上半身を起こす。心臓が痛い程跳ねる


「起きたか」


ベッドの隣に座ってたらしい8階さんがのんきに「おお」と声をあげた。どうやら8階さんに助けて貰ったらしい。大狼はフランケンである8階さんには勝てないらしいのだ。今頃はどっか別の部屋で13階さんに監視されながら寝ているだろう。

いや、そんな事は今の俺にとってはどうでも良い。


ふと己の手を見る。やはり右手はあるが左手が無い。

「やっぱり不死身は回復が早いんだな。まだ1日も経ってないぞ」

感心する8階さんを横目に俺は1階の靴屋へ向かおうとベッドから降りようとして顔面を床に強かに打つ。どうやら気絶してる間に両足を狼に持ってかれたらしい。

「どうしたんだ。気をつけろよ」

8階さんが呆れながら俺をベッドの上に戻してくれた。俺は右手で8階さんの腕を掴む。

「手、俺の手は」

「?俺を掴んでるのがお前の手だろう?」

うまく動かない口で訴えると8階さんは俺の右手を指差す。ちがう、そうじゃない

「俺の左手は、どこに」

「左手?知らんな肉片は散らばってたが…まだ片付けてないぜ。そこらに落ちてるか3階の胃袋の中だ」

うむ。と8階さんは顎に手を当てて答えた。

「アレが胃袋の中だと困る」

俺が思わずそう呟くと8階は

「待ってろ」と俺の手を解き部屋から出て行ってしまった。

動けない俺はどうする事も出来ずにただ布団を握り閉めるだけだ。何故こんなに不安なのだ だかが指輪じゃないか。


ごちゃごちゃ考えていると8階さんが戻って来た。その手には

「…!」

手袋をはめたままの俺の左手が

一瞬心臓が止まってドッと安堵感がぐるぐる回る

「探してみたらすみっこにあった。これで良いか?」

8階さんが俺の左手をホイと投げる。俺はすかさずそれを右手でキャッチして冷たい左手の薬指の根元を触った。

硬い感触。

「ああ…ありがとう…ございます…」

良かった 良かった。


全身から力が抜ける。


ぎゅ、と左手を握り閉めると8階さんは不思議そうに首を傾げて

「左手に想い出でもあるのか」と言った。


窓を見る。朝日が窓から差し込んでいた。



満月は終わった。